優しい人 〜eyes〜
「あ、です。すみませんが、今日休ませてください。
え、ええ、 はい。 ええ。
申し訳ありません。 では、失礼します。」
はー。よし。会社に電話も済んだ。
いつもとは逆の方角の電車に乗る。
でも何処へ行こう。
行き先は決めてない。
だって、只のサボりだもん。
この路線、終着は何処だっけ?
海の匂いだ・・・
いつの間にか乗客は殆ど乗っていなくて。
「ああ、そっか。」
終着の駅からさらに単線に乗り換えよう。
海の匂いはどんどん濃くなる。
「懐かしいなぁ・・・・」
小さな小さな駅で降りる。
向かう先は、決まってるんだ。
迷うことなく、海辺に出た。
浜辺も良いけど、テトラポットの上に座ってみる。
そして、海を眺める。
夏が終わり、誰も居ない海。
昼過ぎの日差しさえきつく感じない。
誰も居ない?
防波堤の先に人がいた。
珍しいなぁ。ここ、釣りが出来るところじゃないから。
夏の海水浴の穴場か、夜の穴場的デートスポット位のはずなのに・・・
男の人か・・・
はぁぁ・・・・
気にしないで海を眺めよう。
忘れる為に。
「女一人でこんな所に居るとは感心しないな。」
急に声を掛けられてびっくりした。
「え?」
さっきまで防波堤に居た人だ・・・
「別に、あなたには関係ないと思いますけど?」
「関係は無いが、気にはなる。」
「はぁ?」
なに?この人?
初対面だし?そんなこと言うかな、普通。
っていうか、顔を覗いてまたびっくりした。
すっごい格好良い。
って、何考えてるの、私。
「ずっと、ここに座って居たな?」
「・・・見てたんですか?」
ストーカー?
「ああ。寂しそうにしていたからな。」
「・・・・・・・」
ビンゴだわ。
「名前はなんと言う?」
「私? それなら、あなたの方から名乗るものじゃない?」
「そうか。俺は焔と言う。」
「焔さん?」
また珍しい名前だなぁ。
「私、 。」
「か。」
・・・・なに?この人。なんて馴れ馴れしいのよ。
でも、とっても低くていい声。
「なぜこんなところに居る?」
「あなたに理由話さないといけないわけ?」
「言いたくなければ構わないが、話をしたそうだ。」
「・・・・会社サボって、海見に来たの。 コレでいい?」
「それだけでは、無いな?」
そう言って、私の左隣に座った。
黒くて長い前髪に隠れてさっきまではよく解らなかったけど、
青い瞳をしている。
「なんだ?俺の顔に何かついているのか?」
「あ、ごめんなさい。とても綺麗な海の色をしてるのね?」
「何のことだ?」
「焔さんの瞳。」
そう言ったら急に黙ってしまった。
なにか気に障ったのかしら?
さっきまで何気に自信有りげな話し方してたのに。
「。」
突然名前を呼ばれてしまった。
「なんですか?」
「これでも、綺麗な瞳だと言えるか?」
そう言って、髪をかきあげ覗いた右の瞳は・・・・
まぶしいくらいの金色だった。
「これでも、海の色なのか?」
「海の色よ。 とても綺麗。」
心の底からそう思った。
「の言っている言葉の意味が解らん。」
「・・・もう直ぐ解るよ。」
本当に解らないようだった。
すこし困ったような顔がさっきまでと違う人みたい。
沈黙が痛くなってきた。
「あのね、私、振られたの。 会社の同僚に。
だから、今日サボったの。」
なぜだか、最初に焔さんに聞かれたことを答えていた。
どのくらい黙って二人で座ってただろう。
太陽が海に傾き始めた。
「焔さん?」
「なんだ。」
「ほら、海の色。」
「海の色?」
「あなたの瞳と同じでしょ?」
夕日が海に反射して金色に光っている。
「綺麗な金色の海でしょ?」
「そうか・・・・」
「私、そろそろ帰るね。
ココ、子供の頃に住んでた所なの。
嫌な事があったらいつもこうして一日海を見ていたの。
この先の、ミモザの木のある家に住んでたのよ。
まだ、残ってるかなぁ・・・」
少し恥ずかしくなって、脈絡なく喋ってしまった。
「ミモザ? アカシアのことか?」
「え?ええ、そう。庭の東側に・・・」
「その家なら、今、俺が住んでいる。」
「え?えええ!?」
「このあたりにアカシアの木のある家は俺の家だけだ。」
嘘ぉ・・・・
「。 今度、嫌な事があれば俺のところに来ればいい。」
「え? うん。そうする。 懐かしい家に行けば良い?」
「家ではなく、俺のところだ。」
自信に満ち溢れた最初の話し方になって少し可笑しかった。
「そうさせて貰う。」
「だが、今日は帰れ。もう遅い。」
「うん。」
手を差し出されて、素直にその手を取った。
私は、この青色と金色の海の輝きをもつ瞳にどうやらヒトメボレしたようだ。